菅名 礼留氏「大人の色水あそび」


2005.2月

「大人の色水あそび-6」

VEILCHEN(すみれ)

  • Parfait Amour 2/10
  • Kiss of Rose 1/10
  • Dita 1/10
  • Schlichte Steinhaeger 6/10

Stir with ice in a mixing glass and pour into a short cocktail glass.
唐突ですが、最後に恋愛をされたのはいつですか?

「そんな昔のはなしを聞かれたって、、、。」というのが大方の反応だとは思います。えっ、今最中ですって? まあ、そんな御仁もおられるでしょう。御聞きしたかったのは、恋心です。ここに、かのゲーテ翁(Goethe, Johan Wolfgang von, 1749-1832)の作になる詩があります。

Das Veilchen

Ein Veilchen auf der Wiese stand
Gebückt in sich und unbekannt;
Es war ein herzig's Veilchen.
Da kam ein'junge Sehäferin
Mit leichtem Schritt und munterm Sinn
Daher, daher,
Die Wiese her, und sang.

Ach, denkt das Veilchen, wä&r' ich nur
Die schönste Blume der Natur,
Ach, nur ein kleines Weilchen,
Bis mich das Liebchen abgepflückt
Und an dem Busen matt gedrückt!
Ach nur, ach nur
Ein Viertelstündchen lang!
Ach, aber ach! Das Mädchen kam
Und nicht in Acht das Veichen nahm,
Ertrat das arme Veilchen.
Es sank und starb und freut' sich noch;

Und sterb' ich denn, so sterb' ich doch
Durch sie, durch sie,
Zu ihren Füssen doch.

翁20代の作のようですが、これがぎょっとするような恋愛心理なのです。要するにですね、あるところに「すみれちゃん」がいたのです。もちろん男です。この「すみれちゃん」が羊飼いの少女に恋をするわけです。それで「すみれちゃん」は思います。自分が世界一きれいな花だったら、あの子に気づいてもらえて、摘まれて胸に押し当てられるかもしれない。自分は死んでしまうけど、息絶えるまでの15分間がいいだろうな、と。この時点でもかなり付いて行けないものを感じますが、話はまだ終わりません。大体において、こういう美少女は薄情にできていて、悲劇が待っています。ある日、少女は「すみれちゃん」の方に駆け寄って来ました。「すみれちゃん」は期待します。でも、少女はなんと「すみれちゃん」には目もくれずに、踏ん付けてしまうんです。息絶え絶えの「すみれちゃん」は思います。「でも、あの子に踏みつけられて死ぬんだから、、、」と。どうです? この感覚。この詩、皆身に覚えのある「現実」を思い起こさせるところもありますが、ちょっと付いて行けそうにもないサンチマンタリズムに圧倒されます。実は、モーツァルト(Mozart, Wolfgang Amadeus, 1756-1791)がこの詩に音楽をつけています。ト長調で、こんな風に。
翁より7歳年下のモーツァルト29歳のときの作です。といっても、彼にとっては、当時はもう「晩年」ですが。この史上最強コンビの歌曲には、29歳のモーツァルトの共感もこめられているのでしょうか。

ドイツ人は彼ら独特のロマンチズムをもっているような気がします。われわれアジア人が聞くと赤面しそうなことを、あのように熱く説かれると、黙る他はありません。それが、ドイツ人の体格や風貌との間にひきおこすミスマッチもなんとも言えませんし、小生もこの詩をはじめて読んだときに想像したのは、もともと巨漢なのに、大食いでぶよぶよに太った晩年のゲーテ翁の姿です。ちなみに、翁はそのような最晩年にあっても孫のように歳の離れたメイドに求婚したといいますから、おそるべしです。
さて今月は、春を予感しながら、この「すみれちゃん」をイメージしたカクテルをつくってみました。すみれの色はParfait Amourという、ほんとうにすみれを使ったリキュールで出しています。Kiss of Roseの花の香りを、ライチでちょっと甘酸っぱい香りに仕上げて、おセンチな感じも出してみました。それでも、ベースはドイツのジンにしているところは、実は骨太な連中の本質を暗示するためです。

もうすぐ立春です。こよみの上では春といっても、今が一番寒い季節。でも、水仙や梅の花が放つ香りは、春が遠くないことを教えてくれます。3月になると、空も霞で明るく光るようになります。桃の花が膨らみ、雲雀が歌いだすと春も本物ですね。そのうち野原ですみれが咲き始めます。